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どうやらわたくしは異世界に転移したようです?④

音楽が流れます

教室に入った瞬間、クラスメイトの刺すような視線が肌をつんざく。

私の品評会が終わると、なんでもなかったかのように会話を続けるクラスメイト達。

何も言わないけれど、視線だけで分かるようになってしまった。

「今日も来たのか」

急激に下がる体温を感じながら、自分の席に着くと
机には『しね』『消えろ』』『ゴミ』『呪』『学校に来るな』等、強引に書きなぐられている。
持参した雑巾とクリーナーで必死に汚れを落とす。
油性ペンで書かれた それは なかなか消えてはくれない。
何度も。何度も。擦って消す。

「とうとう雑巾まで持参してる」

女子グループの冷ややかな笑い声が耳にこびり付いてはなれない。

声の主は関谷ゆり。
ご自慢のネイルによく手入れされた髪をくるくると巻きつけながら、こちらの様子を見ている。
周りには女子達が囲んで笑いをこらえている。

「ヤバイって、流石に」

最初に噴き出したのは小麦色の肌に派手なメイクをした安西ミカ。                        制服を大胆に着崩し、胸元からのぞくネックレスは大学生の彼氏からのプレゼントだと言っていた。

その横で小動物のように目立たないように身体を縮こまらせているのが横山美咲。             何も言えずに周りに合わせて表情を作っているようだ。

「可哀そうなかのかちゃん。ねぇ恵ちゃんはどう思う?」

そういって恵の反応を確かめているのがサイドテールに大きな髪飾りをつけた田口萌。
大きな発言力はないが、目立ちたがりの性格で何でも自分が一番じゃないと気がすまないらしい。

そんな彼女たちを興味なさげな目で見ているのは天童あかり。
ゆるくウェーブのかかった茶髪と華やかな顔立ち、加えてルックスも良くあのグループの中心的存在だ。
彼女自身からはいじめを直接受けたことがないが、彼女の指示であのグループが動いているのは考えなくても分かることだった。

私が一体、何をしたっていうの。

桜の花盛りまでは、信じられないことに彼女たちと同じグループに所属していた。

男子女子問わず、一目置かれる上位グループに入れたことに一時期は誇りさえも感じた。

そんな兆しが一転したのは桜が深い緑色に移り変わった頃。

上手く友達を作れずにどこのグループにも所属することが出来ないあぶれた女子がいた。入学してからインフルエンザにかかり、登校が1週間遅れてしまったためだ。

高校での友達作りは中学生だった頃とは違う。大抵の女子グループは既に形成され新たなよそ者を入れたがらず関わろうともしない。いつ崩れるか分からないグループという場所でみんな自分の居場所を確保するだけで精一杯なのだ。誰もが並々と水の張られたコップから僅かに溢れた分なんて気にしないように。

思春期独特などこか閉鎖的な雰囲気はいびつにも生まれてしまった。

私はその歪みに耐えきれなかった。そして思わず零れた一言。

それがいけなかった。

天童の気持ちを逆なでしたようで、その日からターゲットは私に移り変わった。

汚れを消す度、女子グループから笑いが聞こえる度、自分が惨めで情けない存在だと感じる。

泣きそうな気持ちをグッと堪えて席に座る。

あのグループに属していた時、誰もが私に話かけてくれた。

今は誰も私を見ようともしない。まるでそこには誰もいないかのように。

なんて惨めなんだ。

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どうやらわたくしは異世界に転移したようです?③

「いってきますわ!!」

髪を結び、制服に身を包んだ姿は新村かのか
そのもので、そこにエステル=カスティージョの影はない。

流石はわたくし、平民の真似事さえも完璧ですわね


エステルはまじまじと玄関の姿見をのぞき込み、自分の姿を見て盛大な溜息をついた。

見れば見るほど、平凡な顔だちですこと

自慢のプラチナウェーブの髪も、公爵家由来のルビーの瞳も、多くの男性を虜にしてきた顔立ちも全て失われてしまった。ついでにと言わんばかりに、この世界に来る破目になった記憶も持っていかれてしまった。

最後の記憶は舞踏会のドレスを選んでたはず…でしたのに…

そこにいるのはどこまでも平凡な平民。
濡れたカラスのような髪色も、たれ目がちな瞳も、うつろげでぼんやりした顔立ちも全てが気に入らない。

まさかわたくしがこのような地味な平民に成り下がるなんて・・・

全く信じられませんが、本当にわたくしは異世界に転移してしまったんですわ

一歩踏み出せば太陽は早朝なのにもかかわらず全身をジリジリと照らしてくる。

どうして、朝なのにこんなにも暑いのでしょう?
もしやこれが、四季というものでしょうか?

じんわりとまとわりつく不快感を憂いながら空を見上げれば雲一つない晴天だ。
空の青さはわたくしがいた世界と同じだというのに。

ここは日本という国。魔法もなく、身分制度もない。
そしてわたくしがいた世界はどこにも存在しない。

こちらの言葉で言うなら「事実は小説より奇なり」でしたっけ?

母親に心配されるほど四六時中、図書館に引きこもり書物を読み漁り何日も悩み抜いて、たどり着いた結論だった。
視聴に何も問題ないことから考えるに、平民の知識はわたくしと共有されているのだろう。
最初こそ激しく動揺したが、この世界の知識に触れている内に好奇心に勝てなくなった。
特に素晴らしいと感じたのはエネルギーを生み出す力、そしてそれを効率よく利用する力。
この知識をわたくしのモノにできたら、我がカスティージョ家はその地位を揺るぎないものにするのではありませんこと?

まさに「転んでもただでは起きあがりませんわ」ですわ!!!

わたくしが憑依した平民は新村かのかという人物だった。
馬小屋のような家に戻り、自分の部屋で机の上に置かれた一枚の手紙が目に入り読み上げると、その手紙には学校でいじめに逢っていたことや、いじめグループへの恨み辛みが書き綴られていた。

強者が弱者をいじめる。
生まれながらに身分制度のある世界で生活してきたエステルにとっても、この行為自体はありふれた風景だった。

どの世界も結局は同じ。異世界だと気張っていた力が急に脱力していく。

平民の立場を重んじるなら学校には行かずに告発すれば良いのだろう。
この手紙に書いてある事を伝えれば、何らかの対応はしてもらえるはずだ。

しかしエステルは読み終えた手紙をビリビリに破りさると部屋を後にした。その瞳には何の感情も宿っていない。

だからといって、わたくしが従う道理なんてどこにもない

平民の一人がいじめが原因で自殺した。たったそれだけのこと。
そんなことよりも高貴なるエステルが異世界の平民に身を堕としている。
このことだけが何よりも重要で迅速に解決しなければならない問題だった。

この世界の知識や技術を持って帰るにしても、わたくしの理解力が追い付いていない。
共有されているとはいえ、ベースとなった平民以上のことは分からないのだ。
四季の中で夏という時期というのは分かる。だけどどうして四季と呼ぶのか、どのように生まれた言葉なのかと聞かれたら答えられない。
読破すれば文章だけなら完全に記憶できるが、読了できなければ、それに意味はない。

やはり今のわたくしには何よりも勉学が必要で。
そしてその知識を得るために学校という場所が最適だということ。行かない理由等どこにもない。

平民の小競り合いなんてあずかり知らぬ話、だってわたくしは公爵令嬢エステル=カスティージョなのですから!!!
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在宅薬剤師のお話 智子さんの場合②

それから2,3か月ほどたって2回目の訪問があった。
(患者は担当制ではなく持ち回りだったため、私以外の薬剤師が訪問する場合もある)

報告書を読むと智子さんは毎日、お薬を飲んでくれているようだった。
レスキュー(突発痛時に服用する麻薬)も数回は使っていた。

でもその頃には口から服用することが難しくなりつつあった。
経口から静脈への切り替えのため、その日はCADDカセット(液体の麻薬が詰められた容器)をもっていき、
カセットは使うまでは冷蔵庫にいれて保管するようにと伝えた。

智子さんは少しだけやつれた様子だったけど、お話はできた。
このところ、食事が美味しくないというお話をされた。

薬による副作用かミネラル不足、心の影響、そもそも癌の進行か判断がつかず不明。
どんな味なら分かるのかお聞きして報告書に記入した。

一度、お薬を届けてから薬局に戻る途中の道で会社の携帯が鳴る。
嫌な予感がしながらも、電話にでるとCADDカセットの留め具を閉め忘れかもしれないので確認してほしいとのこと。

閉め忘れるとどうなるかって?
麻薬が外に漏れて大変な損害をだすことになる。麻薬って高いのだ。全て作り直して手間もかかる。
因みに私は一度、閉め忘れてビショビショにして麻薬事故届けを提出したことがある。本当に申し訳ない。

くそっ、くそっ。

渡すときにちゃんと確認しなかった私も悪いのだが、智子さんでその日の仕事は終了だったため、少しぐらい先輩に悪態をついたっていいのだ。

急いで智子さんの家に戻って確認する。
冷蔵庫にしまったそうなので許可をもらいカセットを確認するとちゃんと閉まっていて安心した。
ちょっと冷蔵庫の中が見えてしまったけど、綺麗に整理されていた。

ちょうど夕食をとっているところだったので手早く済ませお礼を言って帰宅。

私はこの時、もう一度冷蔵庫を確認することになるなんて思いもしなかった。

最後に会えた智子さんとはお話どころか目を合わせることもできなかった。

あれから2週間もかからずに彼女は亡くなってしまったのだ。

次回で智子さんお話は最後です。

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日常生活で生物兵器を生み出してしまった話

一人暮らしを始めて間もない頃、私は買い出しにいきアサリを買いました。

買ったものの、今まで実家で暮らしていてアサリなんて潮干狩りの思い出しかありませんでした。

確か、アサリは砂出しが必要だと考えた私はオレンジ色のボウルの中に水をため、面倒だったので量りもせずに塩を適当に混ぜました。

薄暗い場所に置いて寝かせるんだっけなとシンク下の奥の方に置き、砂をだすだろうからと思ってラップをして放置しました。

買い出しにでた日って、その日は何も作る気でないですよね?

買い出しに行った!!偉い!!

ってことでその日はアサリくんを放置。

・・・したのは良いんですが、シンク下の奥に置いたのが大きな間違いでした。

次の日もさらに次の日も私はアサリくんのことをすっかり忘れて過ごしていました。

どのくらいたったでしょうか。

ある日、キッチンに立つとシンク下から異様な匂いを感じました。

卵の腐った匂いとでもいうのでしょうか。とにかく臭いのです。

排水溝から匂うのかと思ってシンク下を開けると何時ぞやから放置しっぱなしだったオレンジ色のボウルが目に入ってきました。

その日私は思い出しました。

アサリくんはどうなった!?と

急いでボウルを取り出そうとしましたが、シンク下を開けたことにより今まで封印されてた匂いが一気にキッチンに充満。

凄まじい刺激臭により鼻は痛いわ、涙は溢れ出るわ、えずきも止まらないわで慌てて封印し直しました。

匂いって余りにも強烈だと涙が勝手に溢れ出すんですね。私はその時、身を持って実感しました。

私はとんでもねぇ化け物をこの世に生み出してしまったのではないか。

えぇ、気分はあのフランケンシュタインのようです。

しかし私は彼のように簡単に見捨てることなんてできません。

だってここは賃貸。敷金は少しでも返ってきていただきたい。

私は部屋に一度避難し、対策を考え万全の準備をすることにしました。

窓を全開にし、換気扇をまわし、二重のマスクにビニール手袋、汚れてもよいようにユニクロのワンピース。

水切りボウルを使いシンクに腐った水だけ捨ててアサリは迅速に二重のビニール袋に入れて捨てよう!そうしよう!!と考え計画に移します。

シンク下を開けるとまた匂いが充満しますが、二重マスクのおかげで何とか耐えられそうです。

ボウルを持ち、ラップを外した次の瞬間

それまでとは比べ物にならない匂いが私を襲う!!!

特殊清掃の方は人が腐った匂いを一度嗅いだら忘れられないそうな。

刹那、そんな知識が頭をよぎった。

どぶ川、生ごみ、下水道、排泄物その全てを混ぜ合わせた

いいえ、それよりも遥かに凌駕するこの匂いはもはや生物兵器。バイオハザードです。

この世の醜悪の匂いはマスクすらも突き抜けて嗅覚、視覚を破壊しまくる。

おえっ、おえっとえづきが止まらない。私の全細胞がそれを否定している!!

人生で一度も出会ったことない、出来れば出会わないままでいたかった

余りの匂いに死を覚悟するほどでした。

後になって調べると、ラップをしたことによりアサリが死に空気がなかったので嫌気性条件下で腐敗が進んだのだと分かりました。

その条件下だとメタンガスなどの人にとっての有害物質を発生させるそうです。

それゆえに私の身体は拒否反応したと。やっぱりバイオハザードじゃん。

その後、意識を失いそうな中、何とかアサリを処理しました。

ですが水切りやボウルからも同じ匂いがついて何度洗っても匂いが落ちないため、今回使用した道具は全て捨てその後ファブリーズを散布しまくりで何とか解決。

もし、どんな匂いなのか気になる方がいらしたら挑戦してみてください。

おススメはしませんし、しばらくアサリ恐怖症になります。

私は二度とやりません。

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在宅薬剤師のお話 智子さんの場合

在宅薬剤師ってご存じでしょうか。
これについては後日、細かく記事にするつもりなんですが、ここでは簡単に言うと患者宅まで薬を届けてその場で服薬指導する人の事です。

私には良い意味でも悪い意味でも心に残る患者さんがいました。
ここではその患者さんについて覚えている限り、書き出していこうと思います。

これはまだ新人の時に出会った患者さん(智子さんとでもしておきます)

智子さんには3回ほど訪問しました。

1回目の訪問では、在宅薬剤師としての契約のお話をしにいきました。

智子さんは癌末期患者でした。

様々な治療を終えて、これ以上は困難と判断され自らの意思で在宅での終身医療に移りました。

医療用麻薬についてこのお薬は癌による痛みをとっていくお薬です。とお話をすると

「私、もうこの痛みは受け入れることにしているの」

智子さんは半ば諦めたような気持ちで言いました。

それまでは一応、定期薬としてセレコキシブ(一般的な痛み止め)を服用されていました。
なので徐々に進行していく癌性疼痛に薬が合わなくなってきたんだと考えました。
癌が進行して今まで効いていたお薬が、効きづらくなるなんてよくあるお話ですから。

しかし、真向から反対しても角がたつと考えた私はその主張を受け入れることにしました。

「そうなんですね。がんの痛みと共存していく道をご選択されたなんて、なかなかできることじゃないですよ。
やっぱり、今までのお薬だと効かなかったですか?」

「最初は効いてたんだけど・・・ねぇ?」

「このお薬は一段階強いお薬になりますが、癌の痛みは徐々に強くなっていきます。
確かに、智子さんの仰る通り最初だけかもしれません。」

「智子さんの考え方はとても素晴らしいと思います。
必要な痛みもあります。この痛みだって自分の身体の一部ですからね。
でも痛みを我慢する必要なんてないってことも知っておいてください。」

「私を含め医療スタッフは苦痛がないことが智子さんにとって一番だと思って今もこうしてお薬を届けています。でも選択するのは智子さん自身です。」

顔を下げてうつむく智子さん。

「・・・私もできるだけ、お薬を飲んでくれると嬉しいです!!報告書が書けるので。なーんて!!」
 
重い空気に耐えられず、冗談を交えたら智子さんは笑ってくれて、最後にはお薬を飲むと約束してもらえた。

その日は遠方で一人暮らしをしている息子のことや、施設に入っている旦那さんのことを聞いて終わりました。

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トースター火災に遭った話

いつも通り、食パンをトーストしている間に洗濯機を回してソファで寝そべってスマホいじっていた。

スマホに夢中になっていたところなんか焦げ臭い匂いを感じました。

嫌な予感がしながら。見に行くとなんとモクモクの灰色の煙がでてるではありませんか。

急いで庫内を開けると既にダークマターになった食パンと轟轟と燃える真っ赤な炎がこんにちわ!!

アラジンのたっけぇトースター!!

私の頭には賃貸なのに、煙警報で感知されたらヤバイ。とよぎった。

何故なら、同じマンション内でボヤ騒ぎが起こったばかり。注目だけは浴びたくない。

次によぎったのは母親がアラジンのトースターで食べてみたいというから、プレゼントしてもらったのに食べさせる前に出火しちゃった。

これは、バレたら怒られる。

という保身ばかり思い浮かんだ。

いや、今はそんなことよりも、消火活動だ!!

私は昔見たテレビの知識を必死に思い出す。

確か、揚げ物料理で油が燃えているところに慌てて水を注ぐとさらに燃え広がるんだっけ?

炎が燃えるのは酸素があるから。

だから水に浸したバスタオルで酸素を遮断しつつ、消火するのが良いと。

その間、わずか0.01秒。

私は洗濯機に回していたバスタオルを急いで回収。

水を浸してトースターめがけてシュート!!

煙が徐々にに小さくなっていくことを確認して、窓を開けて新鮮な空気を取り込む。

家具に匂いがついてしまう!!!これもちゃんとしたところで買ったたっかいやつなのに!!

その後、さらに濡らしたバスタオルを追加して無事消火したのだった。

調べたところによると、トースターが発火したら慌てず電気プラグを抜き

庫内を閉じこめておけば空気を取り込まず自然に消火できるらしい。

みんなは是非、試してほしい。

因みに出火するまでトースターを掃除したことがなかった私はその日から恐怖のあまり

使った都度、真面目に掃除するようにしている。

一人暮らしを始めて数年。はじめてクエン酸と重曹を無印良品で購入した。

ついでにスプレーボトルも売ってあったので大変、便利でした。

しかもメモリが刻まれていたので、どこまで水を入れたらいいのかも分かりやすい。

重曹とクエン酸でシュワシュワさせると掃除してる感じがあって楽しいです。

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どうやらわたくしは異世界に転移したようです?②

病室で眠る娘の顔を見ながら、美紀江は深く安堵した。

所々、包帯で巻かれた娘には痛々しさがあるものの命に別状はない。
飛び降りた際、生垣に引っかかったため奇跡的に軽症だった。

医師の話では、自分のことを空想世界の公爵令嬢だと思いこんでいるようだが
意識を取り戻したばかりで錯乱しているのだろうのこと。だった。

「娘さんが屋上から飛び降りた。」

その言葉を聞いたとき、心臓がとびはねた。
アイロンがけを放り出して、乱暴にコードを引っこ抜き病院まで急いだ。


娘の顔を眺めながら暫く立つと、あの人は現れた。
しっかりと上下スーツを着込み、お昼時だというのに髪は丁寧にセットされたままだ。
汗ひとつかいていない顔で彼は、娘をのぞきこみ、鼻を鳴らした。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            
「どうしてお前がついていながら、こんなことになっているんだ?」

何も言えずきつく口を結ぶ。彼はその様子を見てさらに声を荒げる。

「学校から電話がはいったんだ。これで次の昇進はパーだ。どう責任をとるんだ。言ってみろ」

「・・・ごめんなさい。」

流石の彼も、娘が飛び降りたのに病院に行かないのはまずいと思ったらしい。
結局、一番気にしているのはそのご立派な外面だけ。

娘の心配なんてしていない。

その後も何か言っていたようだが、携帯に着信がかかるとバツが悪そうにそそくさと病室をでていった。
美紀江はまだ眠ったままの娘に手を伸ばし、包帯に巻かれた場所を優しく摩る。


「ごめんね、ごめんね。痛かったよね」


娘がこんな選択をしたのは自分のせいだ。



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27歳薬剤師が婚活パーティーで失敗した話⑥

婚活パーティーでライン交換した人とデートしてきました。

パーティー終わって、ひと悶着あった後、ラインが届いた。

名前をAさんとしましょう。
ラインの頻度は1日2往復くらい。

お昼と夜のデートどちらにしますか?と聞かれたのでお昼を選択。
初回デートで夜希望する方っていますか?
いかんせん、私の経験が少なすぎて疑り深くなってしまう。

お昼時でやや混んでいましたが、わざわざ予約しておいてくださった。有難い。

それぞれの自己紹介を改めて行う。

気になったのでマッチングした人とはどうなったのか聞いてみる。
Aさんからはラインを送っていない。
向こうからも送って来なかったとのこと。

えっ?私には最初からライン飛ばしてきたよね?

本当かなぁ。

お前には俺だけってか?

会話はあんまり盛り上がらなかったかも。
Aさんが普段、仕事ばっかりでテレビ見ないしインターネットにも触れないとのこと。
また本も読まないようで、時事ネタの話をふってもそれってなんですか?って聞き返されることが多かった。
失敗、失敗。

その日はそこで解散。
奢って頂いた。ごちそうさまでした。

二回目のデートをその日取り付ける。

結果から言うと、二回目で終了した。

その頃には、特に理由があるわけではないが一気に冷めてしまった。
やっぱり会話が盛り上がらなかったからかな。あと、向こうが妙に乗り気だった。
ラインの返信も1日ぐらいかかった。

直前まで返信来なくて中止か?と思っていた。

和食を頂くが、じっとこちらを見つめてくるので必死に目を合わせないようにしていた。
目を合わせたら告白が始まると思ったから。

何度かそうしているうちに食べ終わってAさんは諦めたようだ。
割り勘して帰宅。
デートの約束はしていないし、ラインも食事のお礼だけで止まっている。

多分、返信遅くなったから向こうも察してるんだろうな。
昔からこういう事が多い。
向こうからグイグイ来られると引いてしまう。
下心が透けて見えて全て気持ち悪く見える。
アラサーなのに何言ってんだという感じ。

自分のセクシャリティについて考え直した方が良いのかもしれない。

とりあえず今回はここで終わり。

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27歳薬剤師が婚活パーティーで失敗した話⑤

少し歩いた交差点付近で信号待ちをしている顔には少し見覚えがある。
ごめん、嘘ついた。
顔はあんまり覚えていなかったけど、男性の持っているペットボトルは婚活会場で全員に配られたのと同じだった。
おそらく、遅刻した9番さんか?
そんなことを考えていると、丁度目が合ってお互いにペコリと頭を下げる。
私に興味0の人だと知っているため、この人なら話しても大丈夫かということで目的地に着く途中まで話しませんか?と提案してみたらOKを頂く。


目的地まで近いし、人通りも多いし、ガリガリだし、変なことはしてこないだろうと調子に乗っていた。

「どの人を希望に書いたんですか?」と聞くと3人のうち、今回マッチングした2人の女性の番号を言っていた。

すべて回った結果、最初の席の女性が一番よかったらしい。

何度か参加しているようで、今回は参加人数が多すぎてマッチングしにくかった。と不満をいっていたけど
9番さんが遅刻したせいも少しはあるんじゃないかなと。

理由にもよるけど平然とデートとかでも遅刻してきそう・・・。
あとは人気女性を選びすぎなんじゃない?そのヨレヨレの服装なんとかしてから行った方が次につながりそうや。言わないけど!!

そんな事、話しているうちに目的地に近づいたので

「じゃあ、私はこれで・・・」と別れようとすると、とても意外そうな顔をされた。
じろじろと目的地の飲食店のメニューを眺める9番さん。

「えっ、このまま帰るけど、いいの??」

「・・・はぁ?」

「俺の事気になっているんだよね?奢ってくれるなら、付き合ってあげてもいいけど?」

「」

どうやら変な男性を引いてしまったようだ。私が自分に興味を持っていると思いこんでしまったようだ。


どういう思考回路をしたらそうなるんだ。しかも私も希望した男性を聞かれた時にお前の番号言ってないよね?忘れちゃってるのかな???
私が気になったのパーティーに参加した女性層の話であって断じて目の前にいるお前ではない。

と全てを吐き出したかったのだが、いかんせん店の前。
それにその後のことを考えると、思っている事を全て言ったら言ったで帰り道に襲われそうで言えなかった。

「結構です。興味ありません。」と勢いで入店。
店員さんに何名様ですかと聞かれ「1人です!!」と言い切った。
店の扉は常に開けっ放しだったから後ろにいる9番にもよく聞こえたことでしょう。

しばらく窓からこちらをチラチラとみていたけど入ってくる勇気はないようで暫くしたら居なくなっていた。

お気に入りの飲食店なんて教えるんじゃなかった。
こいつが知って店にくるようになったらどうしようと思ったけど
女性客の多い店だったので見るからに陰キャのこいつは1人では来られないだろうな。と嘲笑った。

これが私の精一杯。

そして、これからはマッチングしていない人と帰り道で一緒になったとしても、話しかけない事を心に決めた。

ありがたいことに他の人からも連絡先ももらったけど帰宅後、ハサミで切って捨てた。
同時進行する器用さは持ち合わせていない。特に9番さんの番号は細切れにしておいた。

その日の夜に1番さんからラインがきてデートに行くことになったけどそれはまた、後日。

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27歳薬剤師が婚活パーティーで失敗した話④

「5番さんとお兄さんです。」

「ええっ、そうなんですか!!お姉さんのことは人気なんだろうなって選んでませんでした・・・
あのもし、よかったらライン交換お願いします」

これはまさかのタナボタ。なら最初から選ばんかい!!
希望を避けられたことにモヤモヤしつつもライン交換できました!!
収穫できたものがあっただけでもヨシ!!!

パーティー後はちょうど夕食の時間だったので
マッチングしたらその男性と食べに行こうかと思っていたので少し残念ですが。

「帰ったらラインします!!」

「ありがとうございます。でもマッチングした方も待っているので早く行ってあげて下さいね~」
とお別れをする。
 
ぞろぞろと女性と男性が帰っていく。
男性に聞いた話だと女性参加者は30代が多く、仕事は事務職や工場勤務だそうな。
あと女性は友達と来ている人がいたね。3人組で帰っていった。
だれかがマッチングしたらどうするんだろう。

今回のパーティーは自分が何番人気か何番から希望されたか分かるらしくパーティー終わった後に封筒をもらった。
二番人気と書かれていた。
そこそこ希望はもらえたようだ。さすが、若さ。あと資格職。
若さは体型までも解決する・・・!!

というかぽっちゃり女子で私が二番人気は申し訳なすぎる。
ぽっちゃり女子の戦場で普通体系の私が参加して勝ち取るなんて、もし私がその立場だったならうちらの狩場に来てんじゃねーよって感じだし。
そう考えるとマッチングしなかったのは逆に良かったのか?
ちゃっかりラインは交換したけど。

次もこのパーティーに参加するかと聞かれたら絶対にしないけど!!

あのサイトからも二度と申し込まないわ

そんなことを考えながら、会場を後にして夕食を探しに行く。

すると、偶然にもパーティーに参加した1人の男性が佇んでいた・・・