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在宅薬剤師のお話 智子さんの場合

在宅薬剤師ってご存じでしょうか。
これについては後日、細かく記事にするつもりなんですが、ここでは簡単に言うと患者宅まで薬を届けてその場で服薬指導する人の事です。

私には良い意味でも悪い意味でも心に残る患者さんがいました。
ここではその患者さんについて覚えている限り、書き出していこうと思います。

これはまだ新人の時に出会った患者さん(智子さんとでもしておきます)

智子さんには3回ほど訪問しました。

1回目の訪問では、在宅薬剤師としての契約のお話をしにいきました。

智子さんは癌末期患者でした。

様々な治療を終えて、これ以上は困難と判断され自らの意思で在宅での終身医療に移りました。

医療用麻薬についてこのお薬は癌による痛みをとっていくお薬です。とお話をすると

「私、もうこの痛みは受け入れることにしているの」

智子さんは半ば諦めたような気持ちで言いました。

それまでは一応、定期薬としてセレコキシブ(一般的な痛み止め)を服用されていました。
なので徐々に進行していく癌性疼痛に薬が合わなくなってきたんだと考えました。
癌が進行して今まで効いていたお薬が、効きづらくなるなんてよくあるお話ですから。

しかし、真向から反対しても角がたつと考えた私はその主張を受け入れることにしました。

「そうなんですね。がんの痛みと共存していく道をご選択されたなんて、なかなかできることじゃないですよ。
やっぱり、今までのお薬だと効かなかったですか?」

「最初は効いてたんだけど・・・ねぇ?」

「このお薬は一段階強いお薬になりますが、癌の痛みは徐々に強くなっていきます。
確かに、智子さんの仰る通り最初だけかもしれません。」

「智子さんの考え方はとても素晴らしいと思います。
必要な痛みもあります。この痛みだって自分の身体の一部ですからね。
でも痛みを我慢する必要なんてないってことも知っておいてください。」

「私を含め医療スタッフは苦痛がないことが智子さんにとって一番だと思って今もこうしてお薬を届けています。でも選択するのは智子さん自身です。」

顔を下げてうつむく智子さん。

「・・・私もできるだけ、お薬を飲んでくれると嬉しいです!!報告書が書けるので。なーんて!!」
 
重い空気に耐えられず、冗談を交えたら智子さんは笑ってくれて、最後にはお薬を飲むと約束してもらえた。

その日は遠方で一人暮らしをしている息子のことや、施設に入っている旦那さんのことを聞いて終わりました。

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