に投稿 コメントを残す

ある日、消えたVtuberが実は俺のばあちゃんだった件について。②

ここはどこだ。

記憶を失うほどの衝撃を与えれた俺は、気が付くとポスターが飾られた自室のベットに座りこんでいた。

カーテンの隙間から一筋の陽光が彼女たちの笑顔を照らしている。

桃色のツインテールに一部の青いメッシュが特徴で、幼く可愛らしい顔立ち。
しかし『キュン』という痛い口癖のわりに発言は年寄りじみており、そのギャップが多くのユーザーから人気を得ている。

ホラゲー実況などでは興奮し心筋梗塞を起こしかけたことや、持病のために多量の薬を摂取している事はしばしネタにされがちだ。

幾度ものバズりを重ね、個人Vtuberにして大成功を収めている。

それが俺の知る竜胆モモだった。

オタクを自称している俺でも流石にこれはネタだと思っていたが…まさか、事実だとは思わないだろっ!!

俺の推しが実は、ばあちゃんで!!!
しかも、ばあちゃんはもう、死んでいるのだ!!!

情報が多すぎて理解できない。もう、わけがわからない!

髪の毛をガシガシとかきむしる。何本か抜けた気がするが今はどうだっていい。
夢中になっていたものに裏切られ、いまは憎しみさえ感じている。


とうとう笑顔に耐えきれなかった俺は、ポスターを外すと決め、手を伸ばした。
不意にポスターの中にいる竜胆モモと目が合う。

全体はパステルカラーの淡い色。
背景は遊園地で所々に花や風船が飾られ、楽しそうに笑っている。
なのに、右端には堂々とした黒い筆で『竜胆モモ』と達筆な字でサインされてある。

初回の受注販売分だけ、モモ本人が感謝の気持ちを込めて一枚一枚、書いた。
当時から人気のあるモモが書ききるまでの苦労は相当なものだったはずだ。

しかし、後日ファンの元に届いたそれは、どこまでも丁寧な文字だった。

ポスターを剥がす手が止まり、俯くとどこから落ちたのかモモのモチーフのぬいぐるみが転がっていた。

生まれて初めてのバイトでゲットしたやつだ。

記念すべき初給料はモモのグッズに捧げたってコメントしたら、『大切な人のために使うキュン』って諭された。
仕方なく残ったお金で、母さんに花をプレゼントしたら涙を流して喜んでくれた。

そんな些細な出来事でも伝えると、モモはまるで自分がプレゼントを受け取ったかのように喜びはしゃいでくれる。

『これからもそうするじゃけぇ!あっ、するキュン!!』
口を滑らした方言を慌てて変えて、笑いをとる。モモが好きだった。

ファンにいつだって真摯な態度で向き合う姿勢を尊敬していた。

まだまだ、語りきれない思い出は山のようにある。

また一つと思い出していく度に、頬を伝い涙がこぼれていく。

複雑な思いを含んだ濁流は、自分の意思では塞き止められない。

泣いて、泣いて、赤子のようにわけもなく泣きわめいて。

俺はそのとき、初めて、竜胆モモには二度と会えない事実を受け入れることができたのだ。

ズビッ。
ティッシュで鼻をかもうと伸ばした手が、空をつかむ。
視線を向ければ、ボックスティッシュの中身は入っていない。

さっきのが最後の一枚だったのか。

周囲には丸められたティッシュのゴミが乱雑に放置されている。
もう、これでいいや。とすっかり乾いたゴミで俺はもう一度、鼻をかんだ。

太陽が落ちるに、ようやく涙が枯れ切った。


泣きすぎて目や鼻は痛いが自然と頭はスッキリしている。

こんな俺じゃ、モモにもばあちゃんにも心配されるな。

ふと思い浮かんだ言葉だが、思わず自分でも苦笑してしまう。

そうしてクリアになった思考で、まだ解決していない問題があることに気づく。

事実を知らない残されたファンはどうなるのかと。

これから先も俺と同じような不安を抱えながら生きていくのか。

何もしなければ、月日と共に世間は竜胆モモという存在を忘れていく。
移り変わりの激しい世界だ。きっと10年後には、誰も覚えていない。

いやそれじゃダメだ。
モモが大切にしてきたファンのためにも終止符を打ち、区切りをつける必要がある。

でも引導を渡す役目は俺じゃない。竜胆モモだ。

まずは、誰一人として疑われない完璧なモモを目指す。

自室のドアに手をかけると、心配そうな顔で見つめてくる両親がいる。

泣き声を聞かれていたと知り、羞恥で目をそらした。

「父さん、母さん。心配かけてごめん。それとありがとう。もう俺は大丈夫だから」

少しの間を置き、息を整え口を開く。

真剣な表情で両親と向き合った。

腹はもうくくっている。

「大切な話があるんだ」

に投稿 コメントを残す

ある日、消えたVtuberが実は俺のばあちゃんだった件について。

重い家具を動かす度にふんわりと線香が匂う。
今は焚いていないのだが、古い家屋の匂いを消すために毎日使っていたかもしれない。

確かに祖母と会う時はいつも、この匂いだったような気がする。
どこか懐かしさを感じながらも、俺こと白川田郎は大きなため息をつく。

「そこ、溜息つかない!!」

すかさず、母親の百合子が般若の顔で注意してくる。

推しのVtuberが動画を出さないまま3か月もたてば溜息くらいつきたくなるものだ。
ネットでは、就職の関係とか、親バレ、病んで垢消し等の憶測が飛び交っている。
俺の知っているモモはそんな不誠実なVtuberではない。
本当に引退するなら、リスナー全員のため告知するはず…そう信じてはや3か月。
やはり不安なものは不安である。

今、俺は先月亡くなった祖母の遺品整理に手伝わされている。
悲しくないのかと聞かれれば勿論、悲しい。しかし亡くなった祖母は最後まで明るく陽気な人だった。
葬式で祖母の残した手紙には、娘である百合子のやや恥ずかしいエピソードや先に亡くなった祖父への愚痴など好き勝手に綴られていた。

スタッフの人が余りにも淡々と読み上げるもので、参加者全員、笑いを堪えるのに必死だった。

あの状況は、年末のテレビ番組と一緒だった。
思い出してもまだ、笑える。

そんな祖母は最後まで用意周到で遺品整理も終わっており、細々とした物はほとんど何も残っていない。
アルバムも百合子や俺、俺の父が写っているもの以外は処分したみたいだ。

ただ家具だけは老人の力でどうにもならなかったのか、そのままだった。
祖母の家屋は古く、誰も住む人がいなかったため、3月末に取り壊されることが決まっている。
なので俺は戦力として重たい家具だけを移動するために、こき使われている。

「そろそろ、休憩が欲しいです。お母さま」

身体が悲鳴を上げてきたところで白旗を上げる。

「仕方ないわねぇ、じゃあ、おばあちゃんの部屋からさっきコンビニで買った荷物を持ってきて」

「畏まりました。お母さま!!!」

休憩という言葉に惹かれ元気を取り戻す。
コンビニで買ったものの中には今日発売の新弾パックも入っているからだ。
勿論、Vtuberカード。ランダムではあるが竜胆モモのカードも存在している。

オタクとして買わないわけにはいかない。

まさかこんな田舎に売っているとは。行幸。行幸。

「ついでにおばあちゃんの部屋にパソコンがあるからもらってあげたら?パソコン欲しいって言っていたでしょ?」

確かに、PCを欲しいといった。
だけど老人が使っているような低スペックのPCなら不要も同然だ。
母親から見ればノートパソコンもデスクトップも同じPCというカテゴリーなんだろう。

期待せずにまだ手つかずの祖母の部屋を覗く。そこには全く似つかわしくない物があった。
重厚感のあるパソコンにデュアルモニターが机に置かれている。更に椅子までもゲーミングチェアだった。

「coreはi7!?しかも国内の有名メーカーじゃん!!?」

なんで祖母がこんなPCを持っているのか疑問を覚えたが、それよりも興奮が勝った。

スペックを調べようとPCの電源を付けると、4桁の暗唱番号を入力する画面が表示された。

ばあちゃんの誕生日?…外れか。

じいちゃんの誕生日?これも外れ…?

じゃあ、母さんのとか。…違うな。

老人あるあるの生年月日で暗証番号で登録していると思ったが、どうやらどれも違う。

困ったなと思いながらも、何か手がかりはないかと見回すとPCの裏側に「0617」と書かれたメモを見つけた。
祖母の頭はしっかりとしていたが、晩年の老化には勝てなかったんだろう。

番号を入力していくとデスクトップの画面が開かれる。
たとえ、身内のPCであっても内容は除かないで全て消去しようと考えていた。
それが礼儀だと、その時まで思っていた。

どうして祖母が高スペックのPCを所持していたのか。

疑問が一気に晴れていくと同時に、キーワードを叩く手に一滴の汗が落ちたのを感じる。
ゴクリと喉を鳴らして画面を覗き込む。

そこには俺の推しである、竜胆モモが、驚いたような顔でこちらを見ていたのだ。

「嘘、だろ」

に投稿 コメントを残す

在宅薬剤師のお話 智子さんの場合③

智子さんが亡くなったため薬を回収してほしいという旨の電話が鳴りました。

ここは薬局によって違います。

患者さんにすでにお渡した調剤済み麻薬は使わなくなったという理由で回収する義務はないからです。

私の勤めていた薬局は毎回、回収して薬局で破棄していました。

そんなことで智子さんの自宅に回収に伺うことになりました。

智子さんの自宅には先に自動車が駐車されておりお邪魔すると、男性の方がいらしゃいました。

話しかけると男性はいつか聞いた遠方の息子さんだと分かりました。

部屋に入り、智子さんは介護用ベットにまるで眠っているかのように横たわっていました。

私はそれまで電話でどの患者さんが亡くなったという事や、薬を届けなくなった事からあの人は亡くなったんだという風になんとなく察していました。

実際にこうして冷たくなった患者さんを見たことは初めてでそしてとても衝撃的な光景でした。

使用しなくなった麻薬を回収しに来た旨を伝えると冷蔵庫の中にあるかもしれないと言われ中を覗かせてもらいました。

冷蔵庫には看護師さんが薬を全てまとめてくれてビニール袋とあの日と同じようによく整理されている食材が入っていました。

特に目についたのはまだ未開封の漬物だった。

二回目の訪問時に味がしなくなったと言っていたので、もしかしたら智子さんはまだかすかに残っていた塩味で食事を楽しもうとしていたのかもしれない。

それを見て胸のあたりがジーンと熱くなるのを感じた。

智子さんは明日も生きようとしていた。生きているのが当然だと思っていたんだ。

まさか自分の命が今日潰えるなんて微塵も考えていなかったのだろう。

死はだれにとって貧富の差関係なく、平等に訪れるものだ。

今、普通に接している人達もまた私自身もある日、突然いなくなってしまうことだってある。

私は智子さんを通じて命の儚さを再認識することが出来た。

そんな貴重な体験を通じて私は智子さんの生きれなかった明日をこうして送っている。

「あなたが無駄に過ごした“今日”は、“昨日”死んだ誰かが死ぬほど生きたかった“明日”なんだ」

という韓国の小説の言葉を思い出しました。

だからといって人生を無駄にするななんて説教くさい人は私も嫌いです。

ただ、人である以上突然死ぬこともあることだけは心に刻んで生きほしいです。

智子さん、ありがとう。どうか安らかに。

に投稿 コメントを残す

これからスプラトゥーンを始めようかなという皆さん伝えたい話。

私はスプラトゥーン1の終わりから友達に誘われて始めました。
2と合わせて4000時間は溶かしていると思います。

シューティングゲームが苦手な私でも、それくらい面白いゲームなんです。
その甲斐あってかXPは2500。そこそこの中堅ラインです。

まず、スプラトゥーンというゲームは対人戦です。
自分以外にも画面の向こう側にはゲームをプレイしている人がいます。
なので少しでもその事を気に留めて下さい。
勝利できずにムカつくこともあるでしょう。
煽ったり、晒し上げる行為は相手を傷つけてしまい、貴方自身にとってもよくない結果になります。

匿名性を良いことに好き勝手やっているといつか自分が晒上げされることになりますよ。

因みに私はここに上がるまで、バンバンブロックされましたがその時は落ち込みますが寝れば忘れてます。

そしてこのゲーム最大10人までの友達と遊ぶことができます。

学校や職場でのリアルにゲーム友達がいれば良いのですが、相手にも都合がつかず出来ないこともあるでしょう。
しかもこのゲームは3ではどうなるか分かりませんが、ステージとルールが時間ごとに固定されており、
ゲームをやれる時間にやりたいルール、ステージがないということは頻繁に起こります。

そこでリーグマッチやプライベートマッチが活躍するのですが、人がいない。
そんな時はSNSを使えばお手軽に遊べる友達が見つかります。
このようなゲームは通話が可能かどうかを選ぶことが出来ますのでワイワイ喋りながら遊べます。

私もよくFF外募集に参加するのですが、そこで出会った人は基本的にはみんな良い人ばかりです。
オフ会や仲良くなった友達同士で旅行に行ったりもしています。またスプラ婚をしたというお話も聞いたことがあります。

同じゲームが好きなわけですから話も広がります。

ただ中には変な人もいることを知っておいてほしいのです。
わざとデスしていく人だったり、異性に対して下品な言葉を吐く人だったり、未成年に手を出す人もいます。

いつか「オンラインゲームで粘着されたお話」や「サークルクラッシャーに遭ったお話」を書いていきたいと思います。
これらは実際に私に起こった事です。

スプラトゥーンは他の対人ゲームと比べても中高生が多いので
メリット、デメリットを考えて楽しんで下さい。

に投稿 コメントを残す

どうやらわたくしは異世界に転移したようです?④

音楽が流れます

教室に入った瞬間、クラスメイトの刺すような視線が肌をつんざく。

私の品評会が終わると、なんでもなかったかのように会話を続けるクラスメイト達。

何も言わないけれど、視線だけで分かるようになってしまった。

「今日も来たのか」

急激に下がる体温を感じながら、自分の席に着くと
机には『しね』『消えろ』』『ゴミ』『呪』『学校に来るな』等、強引に書きなぐられている。
持参した雑巾とクリーナーで必死に汚れを落とす。
油性ペンで書かれた それは なかなか消えてはくれない。
何度も。何度も。擦って消す。

「とうとう雑巾まで持参してる」

女子グループの冷ややかな笑い声が耳にこびり付いてはなれない。

声の主は関谷ゆり。
ご自慢のネイルによく手入れされた髪をくるくると巻きつけながら、こちらの様子を見ている。
周りには女子達が囲んで笑いをこらえている。

「ヤバイって、流石に」

最初に噴き出したのは小麦色の肌に派手なメイクをした安西ミカ。                        制服を大胆に着崩し、胸元からのぞくネックレスは大学生の彼氏からのプレゼントだと言っていた。

その横で小動物のように目立たないように身体を縮こまらせているのが横山美咲。             何も言えずに周りに合わせて表情を作っているようだ。

「可哀そうなかのかちゃん。ねぇ恵ちゃんはどう思う?」

そういって恵の反応を確かめているのがサイドテールに大きな髪飾りをつけた田口萌。
大きな発言力はないが、目立ちたがりの性格で何でも自分が一番じゃないと気がすまないらしい。

そんな彼女たちを興味なさげな目で見ているのは天童あかり。
ゆるくウェーブのかかった茶髪と華やかな顔立ち、加えてルックスも良くあのグループの中心的存在だ。
彼女自身からはいじめを直接受けたことがないが、彼女の指示であのグループが動いているのは考えなくても分かることだった。

私が一体、何をしたっていうの。

桜の花盛りまでは、信じられないことに彼女たちと同じグループに所属していた。

男子女子問わず、一目置かれる上位グループに入れたことに一時期は誇りさえも感じた。

そんな兆しが一転したのは桜が深い緑色に移り変わった頃。

上手く友達を作れずにどこのグループにも所属することが出来ないあぶれた女子がいた。入学してからインフルエンザにかかり、登校が1週間遅れてしまったためだ。

高校での友達作りは中学生だった頃とは違う。大抵の女子グループは既に形成され新たなよそ者を入れたがらず関わろうともしない。いつ崩れるか分からないグループという場所でみんな自分の居場所を確保するだけで精一杯なのだ。誰もが並々と水の張られたコップから僅かに溢れた分なんて気にしないように。

思春期独特などこか閉鎖的な雰囲気はいびつにも生まれてしまった。

私はその歪みに耐えきれなかった。そして思わず零れた一言。

それがいけなかった。

天童の気持ちを逆なでしたようで、その日からターゲットは私に移り変わった。

汚れを消す度、女子グループから笑いが聞こえる度、自分が惨めで情けない存在だと感じる。

泣きそうな気持ちをグッと堪えて席に座る。

あのグループに属していた時、誰もが私に話かけてくれた。

今は誰も私を見ようともしない。まるでそこには誰もいないかのように。

なんて惨めなんだ。

に投稿 コメントを残す

どうやらわたくしは異世界に転移したようです?③

「いってきますわ!!」

髪を結び、制服に身を包んだ姿は新村かのか
そのもので、そこにエステル=カスティージョの影はない。

流石はわたくし、平民の真似事さえも完璧ですわね


エステルはまじまじと玄関の姿見をのぞき込み、自分の姿を見て盛大な溜息をついた。

見れば見るほど、平凡な顔だちですこと

自慢のプラチナウェーブの髪も、公爵家由来のルビーの瞳も、多くの男性を虜にしてきた顔立ちも全て失われてしまった。ついでにと言わんばかりに、この世界に来る破目になった記憶も持っていかれてしまった。

最後の記憶は舞踏会のドレスを選んでたはず…でしたのに…

そこにいるのはどこまでも平凡な平民。
濡れたカラスのような髪色も、たれ目がちな瞳も、うつろげでぼんやりした顔立ちも全てが気に入らない。

まさかわたくしがこのような地味な平民に成り下がるなんて・・・

全く信じられませんが、本当にわたくしは異世界に転移してしまったんですわ

一歩踏み出せば太陽は早朝なのにもかかわらず全身をジリジリと照らしてくる。

どうして、朝なのにこんなにも暑いのでしょう?
もしやこれが、四季というものでしょうか?

じんわりとまとわりつく不快感を憂いながら空を見上げれば雲一つない晴天だ。
空の青さはわたくしがいた世界と同じだというのに。

ここは日本という国。魔法もなく、身分制度もない。
そしてわたくしがいた世界はどこにも存在しない。

こちらの言葉で言うなら「事実は小説より奇なり」でしたっけ?

母親に心配されるほど四六時中、図書館に引きこもり書物を読み漁り何日も悩み抜いて、たどり着いた結論だった。
視聴に何も問題ないことから考えるに、平民の知識はわたくしと共有されているのだろう。
最初こそ激しく動揺したが、この世界の知識に触れている内に好奇心に勝てなくなった。
特に素晴らしいと感じたのはエネルギーを生み出す力、そしてそれを効率よく利用する力。
この知識をわたくしのモノにできたら、我がカスティージョ家はその地位を揺るぎないものにするのではありませんこと?

まさに「転んでもただでは起きあがりませんわ」ですわ!!!

わたくしが憑依した平民は新村かのかという人物だった。
馬小屋のような家に戻り、自分の部屋で机の上に置かれた一枚の手紙が目に入り読み上げると、その手紙には学校でいじめに逢っていたことや、いじめグループへの恨み辛みが書き綴られていた。

強者が弱者をいじめる。
生まれながらに身分制度のある世界で生活してきたエステルにとっても、この行為自体はありふれた風景だった。

どの世界も結局は同じ。異世界だと気張っていた力が急に脱力していく。

平民の立場を重んじるなら学校には行かずに告発すれば良いのだろう。
この手紙に書いてある事を伝えれば、何らかの対応はしてもらえるはずだ。

しかしエステルは読み終えた手紙をビリビリに破りさると部屋を後にした。その瞳には何の感情も宿っていない。

だからといって、わたくしが従う道理なんてどこにもない

平民の一人がいじめが原因で自殺した。たったそれだけのこと。
そんなことよりも高貴なるエステルが異世界の平民に身を堕としている。
このことだけが何よりも重要で迅速に解決しなければならない問題だった。

この世界の知識や技術を持って帰るにしても、わたくしの理解力が追い付いていない。
共有されているとはいえ、ベースとなった平民以上のことは分からないのだ。
四季の中で夏という時期というのは分かる。だけどどうして四季と呼ぶのか、どのように生まれた言葉なのかと聞かれたら答えられない。
読破すれば文章だけなら完全に記憶できるが、読了できなければ、それに意味はない。

やはり今のわたくしには何よりも勉学が必要で。
そしてその知識を得るために学校という場所が最適だということ。行かない理由等どこにもない。

平民の小競り合いなんてあずかり知らぬ話、だってわたくしは公爵令嬢エステル=カスティージョなのですから!!!
に投稿 コメントを残す

在宅薬剤師のお話 智子さんの場合②

それから2,3か月ほどたって2回目の訪問があった。
(患者は担当制ではなく持ち回りだったため、私以外の薬剤師が訪問する場合もある)

報告書を読むと智子さんは毎日、お薬を飲んでくれているようだった。
レスキュー(突発痛時に服用する麻薬)も数回は使っていた。

でもその頃には口から服用することが難しくなりつつあった。
経口から静脈への切り替えのため、その日はCADDカセット(液体の麻薬が詰められた容器)をもっていき、
カセットは使うまでは冷蔵庫にいれて保管するようにと伝えた。

智子さんは少しだけやつれた様子だったけど、お話はできた。
このところ、食事が美味しくないというお話をされた。

薬による副作用かミネラル不足、心の影響、そもそも癌の進行か判断がつかず不明。
どんな味なら分かるのかお聞きして報告書に記入した。

一度、お薬を届けてから薬局に戻る途中の道で会社の携帯が鳴る。
嫌な予感がしながらも、電話にでるとCADDカセットの留め具を閉め忘れかもしれないので確認してほしいとのこと。

閉め忘れるとどうなるかって?
麻薬が外に漏れて大変な損害をだすことになる。麻薬って高いのだ。全て作り直して手間もかかる。
因みに私は一度、閉め忘れてビショビショにして麻薬事故届けを提出したことがある。本当に申し訳ない。

くそっ、くそっ。

渡すときにちゃんと確認しなかった私も悪いのだが、智子さんでその日の仕事は終了だったため、少しぐらい先輩に悪態をついたっていいのだ。

急いで智子さんの家に戻って確認する。
冷蔵庫にしまったそうなので許可をもらいカセットを確認するとちゃんと閉まっていて安心した。
ちょっと冷蔵庫の中が見えてしまったけど、綺麗に整理されていた。

ちょうど夕食をとっているところだったので手早く済ませお礼を言って帰宅。

私はこの時、もう一度冷蔵庫を確認することになるなんて思いもしなかった。

最後に会えた智子さんとはお話どころか目を合わせることもできなかった。

あれから2週間もかからずに彼女は亡くなってしまったのだ。

次回で智子さんお話は最後です。

に投稿 コメントを残す

日常生活で生物兵器を生み出してしまった話

一人暮らしを始めて間もない頃、私は買い出しにいきアサリを買いました。

買ったものの、今まで実家で暮らしていてアサリなんて潮干狩りの思い出しかありませんでした。

確か、アサリは砂出しが必要だと考えた私はオレンジ色のボウルの中に水をため、面倒だったので量りもせずに塩を適当に混ぜました。

薄暗い場所に置いて寝かせるんだっけなとシンク下の奥の方に置き、砂をだすだろうからと思ってラップをして放置しました。

買い出しにでた日って、その日は何も作る気でないですよね?

買い出しに行った!!偉い!!

ってことでその日はアサリくんを放置。

・・・したのは良いんですが、シンク下の奥に置いたのが大きな間違いでした。

次の日もさらに次の日も私はアサリくんのことをすっかり忘れて過ごしていました。

どのくらいたったでしょうか。

ある日、キッチンに立つとシンク下から異様な匂いを感じました。

卵の腐った匂いとでもいうのでしょうか。とにかく臭いのです。

排水溝から匂うのかと思ってシンク下を開けると何時ぞやから放置しっぱなしだったオレンジ色のボウルが目に入ってきました。

その日私は思い出しました。

アサリくんはどうなった!?と

急いでボウルを取り出そうとしましたが、シンク下を開けたことにより今まで封印されてた匂いが一気にキッチンに充満。

凄まじい刺激臭により鼻は痛いわ、涙は溢れ出るわ、えずきも止まらないわで慌てて封印し直しました。

匂いって余りにも強烈だと涙が勝手に溢れ出すんですね。私はその時、身を持って実感しました。

私はとんでもねぇ化け物をこの世に生み出してしまったのではないか。

えぇ、気分はあのフランケンシュタインのようです。

しかし私は彼のように簡単に見捨てることなんてできません。

だってここは賃貸。敷金は少しでも返ってきていただきたい。

私は部屋に一度避難し、対策を考え万全の準備をすることにしました。

窓を全開にし、換気扇をまわし、二重のマスクにビニール手袋、汚れてもよいようにユニクロのワンピース。

水切りボウルを使いシンクに腐った水だけ捨ててアサリは迅速に二重のビニール袋に入れて捨てよう!そうしよう!!と考え計画に移します。

シンク下を開けるとまた匂いが充満しますが、二重マスクのおかげで何とか耐えられそうです。

ボウルを持ち、ラップを外した次の瞬間

それまでとは比べ物にならない匂いが私を襲う!!!

特殊清掃の方は人が腐った匂いを一度嗅いだら忘れられないそうな。

刹那、そんな知識が頭をよぎった。

どぶ川、生ごみ、下水道、排泄物その全てを混ぜ合わせた

いいえ、それよりも遥かに凌駕するこの匂いはもはや生物兵器。バイオハザードです。

この世の醜悪の匂いはマスクすらも突き抜けて嗅覚、視覚を破壊しまくる。

おえっ、おえっとえづきが止まらない。私の全細胞がそれを否定している!!

人生で一度も出会ったことない、出来れば出会わないままでいたかった

余りの匂いに死を覚悟するほどでした。

後になって調べると、ラップをしたことによりアサリが死に空気がなかったので嫌気性条件下で腐敗が進んだのだと分かりました。

その条件下だとメタンガスなどの人にとっての有害物質を発生させるそうです。

それゆえに私の身体は拒否反応したと。やっぱりバイオハザードじゃん。

その後、意識を失いそうな中、何とかアサリを処理しました。

ですが水切りやボウルからも同じ匂いがついて何度洗っても匂いが落ちないため、今回使用した道具は全て捨てその後ファブリーズを散布しまくりで何とか解決。

もし、どんな匂いなのか気になる方がいらしたら挑戦してみてください。

おススメはしませんし、しばらくアサリ恐怖症になります。

私は二度とやりません。

に投稿 コメントを残す

在宅薬剤師のお話 智子さんの場合

在宅薬剤師ってご存じでしょうか。
これについては後日、細かく記事にするつもりなんですが、ここでは簡単に言うと患者宅まで薬を届けてその場で服薬指導する人の事です。

私には良い意味でも悪い意味でも心に残る患者さんがいました。
ここではその患者さんについて覚えている限り、書き出していこうと思います。

これはまだ新人の時に出会った患者さん(智子さんとでもしておきます)

智子さんには3回ほど訪問しました。

1回目の訪問では、在宅薬剤師としての契約のお話をしにいきました。

智子さんは癌末期患者でした。

様々な治療を終えて、これ以上は困難と判断され自らの意思で在宅での終身医療に移りました。

医療用麻薬についてこのお薬は癌による痛みをとっていくお薬です。とお話をすると

「私、もうこの痛みは受け入れることにしているの」

智子さんは半ば諦めたような気持ちで言いました。

それまでは一応、定期薬としてセレコキシブ(一般的な痛み止め)を服用されていました。
なので徐々に進行していく癌性疼痛に薬が合わなくなってきたんだと考えました。
癌が進行して今まで効いていたお薬が、効きづらくなるなんてよくあるお話ですから。

しかし、真向から反対しても角がたつと考えた私はその主張を受け入れることにしました。

「そうなんですね。がんの痛みと共存していく道をご選択されたなんて、なかなかできることじゃないですよ。
やっぱり、今までのお薬だと効かなかったですか?」

「最初は効いてたんだけど・・・ねぇ?」

「このお薬は一段階強いお薬になりますが、癌の痛みは徐々に強くなっていきます。
確かに、智子さんの仰る通り最初だけかもしれません。」

「智子さんの考え方はとても素晴らしいと思います。
必要な痛みもあります。この痛みだって自分の身体の一部ですからね。
でも痛みを我慢する必要なんてないってことも知っておいてください。」

「私を含め医療スタッフは苦痛がないことが智子さんにとって一番だと思って今もこうしてお薬を届けています。でも選択するのは智子さん自身です。」

顔を下げてうつむく智子さん。

「・・・私もできるだけ、お薬を飲んでくれると嬉しいです!!報告書が書けるので。なーんて!!」
 
重い空気に耐えられず、冗談を交えたら智子さんは笑ってくれて、最後にはお薬を飲むと約束してもらえた。

その日は遠方で一人暮らしをしている息子のことや、施設に入っている旦那さんのことを聞いて終わりました。

に投稿 コメントを残す

トースター火災に遭った話

いつも通り、食パンをトーストしている間に洗濯機を回してソファで寝そべってスマホいじっていた。

スマホに夢中になっていたところなんか焦げ臭い匂いを感じました。

嫌な予感がしながら。見に行くとなんとモクモクの灰色の煙がでてるではありませんか。

急いで庫内を開けると既にダークマターになった食パンと轟轟と燃える真っ赤な炎がこんにちわ!!

アラジンのたっけぇトースター!!

私の頭には賃貸なのに、煙警報で感知されたらヤバイ。とよぎった。

何故なら、同じマンション内でボヤ騒ぎが起こったばかり。注目だけは浴びたくない。

次によぎったのは母親がアラジンのトースターで食べてみたいというから、プレゼントしてもらったのに食べさせる前に出火しちゃった。

これは、バレたら怒られる。

という保身ばかり思い浮かんだ。

いや、今はそんなことよりも、消火活動だ!!

私は昔見たテレビの知識を必死に思い出す。

確か、揚げ物料理で油が燃えているところに慌てて水を注ぐとさらに燃え広がるんだっけ?

炎が燃えるのは酸素があるから。

だから水に浸したバスタオルで酸素を遮断しつつ、消火するのが良いと。

その間、わずか0.01秒。

私は洗濯機に回していたバスタオルを急いで回収。

水を浸してトースターめがけてシュート!!

煙が徐々にに小さくなっていくことを確認して、窓を開けて新鮮な空気を取り込む。

家具に匂いがついてしまう!!!これもちゃんとしたところで買ったたっかいやつなのに!!

その後、さらに濡らしたバスタオルを追加して無事消火したのだった。

調べたところによると、トースターが発火したら慌てず電気プラグを抜き

庫内を閉じこめておけば空気を取り込まず自然に消火できるらしい。

みんなは是非、試してほしい。

因みに出火するまでトースターを掃除したことがなかった私はその日から恐怖のあまり

使った都度、真面目に掃除するようにしている。

一人暮らしを始めて数年。はじめてクエン酸と重曹を無印良品で購入した。

ついでにスプレーボトルも売ってあったので大変、便利でした。

しかもメモリが刻まれていたので、どこまで水を入れたらいいのかも分かりやすい。

重曹とクエン酸でシュワシュワさせると掃除してる感じがあって楽しいです。