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在宅薬剤師のお話 智子さんの場合③

智子さんが亡くなったため薬を回収してほしいという旨の電話が鳴りました。

ここは薬局によって違います。

患者さんにすでにお渡した調剤済み麻薬は使わなくなったという理由で回収する義務はないからです。

私の勤めていた薬局は毎回、回収して薬局で破棄していました。

そんなことで智子さんの自宅に回収に伺うことになりました。

智子さんの自宅には先に自動車が駐車されておりお邪魔すると、男性の方がいらしゃいました。

話しかけると男性はいつか聞いた遠方の息子さんだと分かりました。

部屋に入り、智子さんは介護用ベットにまるで眠っているかのように横たわっていました。

私はそれまで電話でどの患者さんが亡くなったという事や、薬を届けなくなった事からあの人は亡くなったんだという風になんとなく察していました。

実際にこうして冷たくなった患者さんを見たことは初めてでそしてとても衝撃的な光景でした。

使用しなくなった麻薬を回収しに来た旨を伝えると冷蔵庫の中にあるかもしれないと言われ中を覗かせてもらいました。

冷蔵庫には看護師さんが薬を全てまとめてくれてビニール袋とあの日と同じようによく整理されている食材が入っていました。

特に目についたのはまだ未開封の漬物だった。

二回目の訪問時に味がしなくなったと言っていたので、もしかしたら智子さんはまだかすかに残っていた塩味で食事を楽しもうとしていたのかもしれない。

それを見て胸のあたりがジーンと熱くなるのを感じた。

智子さんは明日も生きようとしていた。生きているのが当然だと思っていたんだ。

まさか自分の命が今日潰えるなんて微塵も考えていなかったのだろう。

死はだれにとって貧富の差関係なく、平等に訪れるものだ。

今、普通に接している人達もまた私自身もある日、突然いなくなってしまうことだってある。

私は智子さんを通じて命の儚さを再認識することが出来た。

そんな貴重な体験を通じて私は智子さんの生きれなかった明日をこうして送っている。

「あなたが無駄に過ごした“今日”は、“昨日”死んだ誰かが死ぬほど生きたかった“明日”なんだ」

という韓国の小説の言葉を思い出しました。

だからといって人生を無駄にするななんて説教くさい人は私も嫌いです。

ただ、人である以上突然死ぬこともあることだけは心に刻んで生きほしいです。

智子さん、ありがとう。どうか安らかに。

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