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在宅薬剤師のお話 智子さんの場合②

それから2,3か月ほどたって2回目の訪問があった。
(患者は担当制ではなく持ち回りだったため、私以外の薬剤師が訪問する場合もある)

報告書を読むと智子さんは毎日、お薬を飲んでくれているようだった。
レスキュー(突発痛時に服用する麻薬)も数回は使っていた。

でもその頃には口から服用することが難しくなりつつあった。
経口から静脈への切り替えのため、その日はCADDカセット(液体の麻薬が詰められた容器)をもっていき、
カセットは使うまでは冷蔵庫にいれて保管するようにと伝えた。

智子さんは少しだけやつれた様子だったけど、お話はできた。
このところ、食事が美味しくないというお話をされた。

薬による副作用かミネラル不足、心の影響、そもそも癌の進行か判断がつかず不明。
どんな味なら分かるのかお聞きして報告書に記入した。

一度、お薬を届けてから薬局に戻る途中の道で会社の携帯が鳴る。
嫌な予感がしながらも、電話にでるとCADDカセットの留め具を閉め忘れかもしれないので確認してほしいとのこと。

閉め忘れるとどうなるかって?
麻薬が外に漏れて大変な損害をだすことになる。麻薬って高いのだ。全て作り直して手間もかかる。
因みに私は一度、閉め忘れてビショビショにして麻薬事故届けを提出したことがある。本当に申し訳ない。

くそっ、くそっ。

渡すときにちゃんと確認しなかった私も悪いのだが、智子さんでその日の仕事は終了だったため、少しぐらい先輩に悪態をついたっていいのだ。

急いで智子さんの家に戻って確認する。
冷蔵庫にしまったそうなので許可をもらいカセットを確認するとちゃんと閉まっていて安心した。
ちょっと冷蔵庫の中が見えてしまったけど、綺麗に整理されていた。

ちょうど夕食をとっているところだったので手早く済ませお礼を言って帰宅。

私はこの時、もう一度冷蔵庫を確認することになるなんて思いもしなかった。

最後に会えた智子さんとはお話どころか目を合わせることもできなかった。

あれから2週間もかからずに彼女は亡くなってしまったのだ。

次回で智子さんお話は最後です。

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