病室で眠る娘の顔を見ながら、美紀江は深く安堵した。 所々、包帯で巻かれた娘には痛々しさがあるものの命に別状はない。 飛び降りた際、生垣に引っかかったため奇跡的に軽症だった。 医師の話では、自分のことを空想世界の公爵令嬢だと思いこんでいるようだが 意識を取り戻したばかりで錯乱しているのだろうのこと。だった。 「娘さんが屋上から飛び降りた。」 その言葉を聞いたとき、心臓がとびはねた。 アイロンがけを放り出して、乱暴にコードを引っこ抜き病院まで急いだ。 娘の顔を眺めながら暫く立つと、あの人は現れた。 しっかりと上下スーツを着込み、お昼時だというのに髪は丁寧にセットされたままだ。 汗ひとつかいていない顔で彼は、娘をのぞきこみ、鼻を鳴らした。 「どうしてお前がついていながら、こんなことになっているんだ?」 何も言えずきつく口を結ぶ。彼はその様子を見てさらに声を荒げる。 「学校から電話がはいったんだ。これで次の昇進はパーだ。どう責任をとるんだ。言ってみろ」 「・・・ごめんなさい。」 流石の彼も、娘が飛び降りたのに病院に行かないのはまずいと思ったらしい。 結局、一番気にしているのはそのご立派な外面だけ。 娘の心配なんてしていない。 その後も何か言っていたようだが、携帯に着信がかかるとバツが悪そうにそそくさと病室をでていった。 美紀江はまだ眠ったままの娘に手を伸ばし、包帯に巻かれた場所を優しく摩る。 「ごめんね、ごめんね。痛かったよね」 娘がこんな選択をしたのは自分のせいだ。